先々月から海溝型巨大地震における「想定外」を考えてきました。内陸の活断層が起こす地震にも「想定外」ってあり得るでしょうか?
個々の活断層は活動周期が数千年と長く、古文書に記録が残るものはまれで、断層部分を掘らないと過去の履歴がわかりません。年代推定には大きな誤差が伴い、将来の地震発生予測も曖昧にならざるをえません。未知の活断層の存在もあり得るとされているものの、阪神淡路大震災以降、主要な活断層について可能な限り調査が行われ、最新活動時期や再来間隔、将来の地震発生確率、震度分布予測などが公表されました。しかし、これらの断層の地震発生と被害予測は、今のところ単独の地震を想定しています。
1596年の慶長伏見地震は伏見城が倒壊したことで有名ですが、数日前から別府湾の慶長豊後地震、四国中部の慶長伊予地震とマグニチュード(M)7級の地震が続いていました。これらは中央構造線とその支線の有馬高槻構造線に沿ってドミノ倒しのように発生しました。
その10年前の1586年の天正地震は、岐阜県南東部の阿寺断層、飛騨の庄川断層に加え、濃尾平野西方の養老断層帯もほぼ同時に活動したと考えられています。被害は甚大で、倒壊した城だけでも越中、飛騨、近江長浜と広い範囲に及んでいます。
このように複数の内陸大地震が連動・誘発すると、被害は広域かつ複雑となり、救援や復興の困難さも増します。連動しないまでも、ある断層で地震が起きたことで周辺の断層にかかる応力が変化し、地震発生時期が従来の予測より早まることもあり得ます。
北陸や山陰沖の日本海には大平洋側のようにプレートが沈み込む境界はなく、海溝型巨大地震は起こらないとされています。 2007年の能登半島地震や中越沖地震の震源断層は、大部分が海域に位置していました。日本海では真新しい断層の動きを示す海底地形が多く見つかるそうです。「内陸地震」として日本海の海底で大地震が起きる可能性は否定できません。震源が海域である以上、津波の発生もあり得ます。海域での断層調査は陸上より困難でノーマークに近い状態ですが、今後研究調査を進めていく必要があるでしょう。
(片尾 浩・京都大防災研地震予知研究センター准教授)
京都新聞2011/11/15