白昼震災:(上) 超高層ビル、機能まひ

◇倒壊家具避難の妨げに
 オフィス内で本棚が次々と倒れ、コピー機は縦横無尽に動き回る。昨年1月、独立行政法人「防災科学技術研究所」の施設「E-ディフェンス」(兵庫県三木市)で行われた実験。実物大の家具などを使い、近い将来起きるとされる南海地震で生じるゆっくりとした揺れ「長周期地震動」が超高層ビルのオフィスに与える影響を調べた。

 長周期地震動は巨大地震で発生しやすく、低い家屋にはさほど影響しないが、巨大建築物を大きく揺さぶる。揺れが1往復するのに2秒以上かかり、高層階ほど大きい。継続時間が長く、数分間続くと予想される。

 キッチンを再現した実験では、食器棚や冷蔵庫が簡単に倒れた。事務機器、家具を金具などで固定すれば、転倒は避けられた。実験の映像は同研究所のホームページ(http://www.bosai.go.jp/hyogo/movie.html)で公開されているが、一般にはあまり知られていない。

 超高層ビルは地震で倒壊しなくても、中にいる人たちにダメージを与える可能性がある。ビジネスマンがひしめく昼間なら多くのけが人が出て、エレベーターや水道が止まれば、機能がまひする。同研究所の長江拓也研究員は「長周期地震動では、固定していない器具は重い軽いに関係なく倒れる。階段しか使えず、素早く避難できない可能性が高い」と指摘する。

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 60メートルを超える超高層ビルはここ10年で急速に増えた。建築には国土交通相の認定が必要で、社団法人・日本住宅協会によると、90年代は年間100件未満だったが、00年から急増し、06年度は194件が認定された。

 不動産情報サービス会社「東京カンテイ」(東京都品川区)によると、大都市で人気が高い超高層マンションは、ピークの07年には84棟2万7940戸が完成。この10年で約600棟、約16万戸が供給された。高層階は、眺望の良さと値崩れしにくいことが人気を支えるが、防災への関心は高まっていない。

 一方で、動きも出始めている。マンションを販売する東京建物(東京都中央区)は、一部の建物で、家具転倒防止用のねじ込み式金具を使いやすいよう、壁紙の内側に薄い鉄板を入れるなどの工夫を施す。山口透・広報IR室担当課長は「購入の背中を押す材料になっている」と話す。

 人口約11万人、全世帯の9割近くがマンション住民の東京都中央区。被災後も自宅で生活できるよう、対策の周知を図っている。区の協力を得て災害対策マニュアル作りを進めている区内のある39階建てマンションは、全世帯の3分の1以上に高齢者がいる。マンション内の人手が減る日中の救助体制など、多岐にわたる検討項目を1年かけ話し合った。管理組合の鈴木健一理事長(48)は「マンションごとで事情は違う。マニュアル作りには、『地震は起こらない』と思っている入居者の意識改革が必要」と話す。

 95年の阪神大震災以降、新潟県中越地震(04年)や昨年の岩手・宮城内陸地震など、国内各地で大地震を経験したが、発生は週末や早朝だった。多くの人が勤め先や学校に出かけ、家には高齢者や幼児が残る平日昼間の地震を、近年、私たちは経験していない。いったいどのような被害になるのか、どういった備えが必要なのか。未経験の「白昼震災」について考える。

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 ◇50~70%
 「東南海・南海地震」が今後30年以内に起きる確率。同時発生すればマグニチュードは推定8・5。東京、名古屋、大阪はいずれも長周期地震動に見舞われると予測される。
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毎日新聞 2009年1月15日

「長周期地震動」法定検査
東海・東南海・南海などの巨大地震で発生し、超高層ビルに影響が大きいゆっくりした揺れ「長周期地震動」について、国土交通省が、設計段階で法定のチェック項目に加える方針を固めた。
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毎日新聞 2009年1月15日